第4回全日本スプリントにおける競技不成立について

 昨年度末に開催された同大会における公園内の立入禁止区域への競技者の立ち入りと、それに伴う競技不成立について、日本オリエンテーリング協会(JOA)としての公式見解を公表いたします。

  1. 日本オリエンテーリング協会としての公式見解文
  2. 関連する皆様へのメッセージ
  3. 資料:本件の経緯とそれに対する日本オリエンテーリング協会の考え方

Ⅰ 日本オリエンテーリング協会としての公式見解

2013年1月
公益社団法人 日本オリエンテーリング協会

第4回全日本スプリント選手権の不成立について

 2012年3月18日に群馬県で開催された日本オリエンテーリング選手権(スプリント競技)大会において、男子選手権(ME)クラスが競技不成立となりました。これにより、2011年度のスプリント競技の男子日本選手権者は空位となります。このような事態を招いたことにつきまして、深くお詫び申しあげます。

 大会会場となった群馬県立金山総合公園「ぐんまこどもの国」内には、環境保護のために足を踏み入れてはいけない区域が存在しています。大会当日、その場所には白いテープを張り、係員を配置していました。しかしながら、競技用の地図にその記載がなかったため、競技者がルートプランニングの段階で立入禁止区域があることを知ることができず、一部の競技者は予期しない迂回ルートを強制されることになりました。また、配置された係員が競技議進行中に現場の判断でテープを延長し、立入禁止箇所を広げてしまっていました。結果、競技の公平性を保つことができなかったと判断し、競技不成立となりました。

 原因はいくつかありますが、主には当協会の代表者である大会コントローラが、以下の点で役割を果たすことができなかったことによるものと考えます。

  • 公園という一般市民が利用する場でのリスク認識とそれへの対策が十分でなく、結果として、競技者が立ち入り禁止区域に入ってしまったこと。
  • 大会スタッフが当日急遽立入禁止区域を設けたが、それについてスタッフ内での情報共有についての監督が不十分であったこと。

 オリエンテーリングの「コース設定の原則」には、競技の質、公平性、楽しさ、環境保護、メディアサービスの妥当性が重要であるとあります。これらの大原則を逸脱することは、競技会を不成立にする理由になります。

 当協会では、コントローラ資格者を養成することを目的として、オリエンテーリング講習会および研修会を定期的に開催しています。今回の事態を教訓に、今後は「公園の正しい利用方法」という観点からスプリント競技に関するカリキュラムを強化していきます。

 また、大会コントローラを選定するにあたっては、講習会受講の履歴だけではなく、実際に競技会に参加した実績も管理して、コントローラ資格者の質の向上と、より適切な大会コントローラを選任できる仕組み作りを図っていく所存でございます。 

以上 

付記:
 なお、関係者に向けた今後の具体的な対応・お願い、本件の経緯とJOAの見解についてはそれぞれ以下からお読みいただくことができます。

【Ⅱ-1 オリエンテーリングに関心をお持ちの全ての皆様へ】

 さる2012年3月に当協会が主催して全日本スプリント選手権(会場:ぐんまこどもの国)が開催されました。この大会において、参加者が本来立ち入り禁止であるホタルの生息地に立ち入るという事態が発生しました。当協会および主管者としては、この場所がホタルの生息地であり、立ち入り禁止であることは公園との協議の中で把握しており、参加者が利用する地図にもその旨も記載してありましたが、現地での指示が不十分だったため、誤って参加者がその場所に入ってしまったものと考えられます。

 オリエンテーリングは、1960年代後半に日本に導入され、自然の中で自ら問題解決、状況判断しながら目的地を目指す、現代の教育課題にも対応しうるスポーツです。その競技特性のため、競技場ではなく私的な所有地も含めた自然環境や公園などの公共空間の利用が不可欠な競技です。今回の事態は、これまで快くオリエンテーリングの利用を承諾していただいた所有者の方や公共の利用者の方の期待を裏切るものと言え、日本のオリエンテーリングを統括する中央組織として、このような事態が発生してしまったことと、本件に関する当協会としての公式見解の公表が遅れたことについて、関係各位にお詫びします。

 今後ともオリエンテーリングが健全に発展し、青少年の育成や国民の福利厚生に貢献できるよう、競技者への啓発、運営上の工夫などの周知徹底や教育機会を持ち、今後再発を防止するために尽力する次第です。

【Ⅱ-2 オリエンテーリング関係者への補足】

 オリエンテーリングという競技は、専用の競技場(グラウンド)で開催できる類のスポーツではありません。競技できる場所(テレイン)を提供してくださる地元や地権者の方々への感謝を忘れてはなりません。殊にスプリント競技は市街地や公園等で開催されるので、一般利用者の方々への配慮がとても大切です。

 運営者、競技者を問わず、大会に参加している誰かによる一般の利用者の方に迷惑をかける行為があった場合には、競技を中止にする可能性があります。当協会は、オリエンテーリングの明日を守ることは、一競技会を成立させることよりも大切だと考えています。

【Ⅱ-3 大会を開催・運営してくださる方々へ】

 本件のような事態が繰り返させるようであれば、オリエンテーリング競技に対する社会的な風当たりが強くなり、より強い制約が化される可能性がありますので、会長名で関係各位へのお詫びと再発防止についてのアナウンスをし、また競技者に対しても、アナウンスと今後の啓発を行い、再発防止に努めているところです。

 なお、本件発生時には、現場にいた運営スタッフが緊急に立ち入り禁止のテープを張ることで、事態の拡大防止を臨機応変に図っていただきましたことについて、当大会の主催者であるJOAとして謝意を申し上げます。

 一方で、大会を開催・運営して下さる皆様にも、いくつかのお願いがあります。

 当協会は日本におけるオリンエテーリングの中央組織として、年間の大会開催計画を確認・管理しておりますが、それぞれの大会の準備状況を詳細に把握してご支援することは残念ながらできません。主管者のみなさんを信頼してお任せすることになります。

 競技者に満足してもらえる質の高いレースを提供するために、オリエンテーリング競技に関連する競技規則・規定類をよく理解しておいてください。

 公園等でオリエンテーリングを行う場合、立入禁止や禁止行為などの制限事項が存在することが多いと思われます。それらを正しく把握し、大会コントローラに伝え、競技者にも周知するようにお願いします。

【Ⅱ-4 大会コントローラをされる方々へ】

 大会を運営してくださる方々のご厚意と努力を決して無駄にしないように、大会が競技規則に則って行われ公正さを保証されているかどうか、確実なチェックをお願いします。

 公園等でのオリエンテーリングでは、環境の保全と一般利用者の安全が重視されます。立入禁止区域が地図に正確に記載されていることはきわめて重要です。また競技者が無意識に失格になってしまうことを未然に防いであげられるよう、現地でもできる限り表示をしてください。

 一般利用者の安全を守るため、人が集まりやすい場所や、細い連絡橋、遊具等には、できる限り近づかないか、または必要最小限の通過ですむようなコース設定を心がけてください。

【Ⅱ-5 競技者のみなさまへ】

 本件の重大な原因の一つとして、参加者が利用する地図にホタル生息地域による立ち入り禁止の記載がありましたが、現地での立ち入り禁止区域周囲のテープがなかったことが挙げられます。その一方で立ち入り禁止記号に対する競技者の認識や、立ち入り禁止に対する現地での行動に慎重さが足りなかったことも、本件の一因として指摘できます。

 さらに、オリエンテーリングは、占有の空間ではなく、一般社会に開かれたフィールドで行われる競技です。このため、時には競技場の要請よりも社会通念上重要な事項が優先されることもありえます(規則には載っていることですが、たとえばケガをした競技者の救助が競技よりも優先されるのはその一例です)。公園等で大会に参加するときには、一般利用者への配慮を忘れず、競技中であるかないかに関わらず、節度とマナーをわきまえた行動を心がけてください。

 また、大会開催に携わるほぼすべての方々は、無報酬でボランティアで働いてくださっています。大会の運営に不備があった場合に、それを指摘することはもちろん必要ですが、一方で運営者に対する敬意と感謝も忘れないでください。

【Ⅲ 資料: 本件の経緯とそれに対するJOAの考え方】

本件経緯概略

 公園利用の点で問題になったのは①②の2点であり、加えて今回提訴に関係した③が発生した。

  • ①高さ1.5mの木道から飛び降りて草地の中に走り出した選手がいた。来園者が、スタッフに「こんなことをしていいのか」との指摘があった。この指摘に関連する木道は渡れない湿地表記とオープンに記載した小径で、競技者や公園管理者からのクレーム等はなかった。
  • ②地図上の立ち入り禁止区域の表示はパープルの縦ハッチ、周囲の囲み線なしであった。立入禁止区域の地図表記は通行できる湿地である。ホタルが生息しており公園管理者からの聞き取りをもとに立ち入り禁止のパープル縦ハッチ(周囲囲み線なし)をかけた。記号のとおり、現地には周囲を囲む物理的なテープ等はなかった。なお、前日設定の立ち入り禁止区域には白テープを使い、そこに「立ち入り禁止」の目立つ看板をつり下げている旨の文書と看板見本を示した公式掲示があった。問題となった立入禁止部分片側にのみ白テープと看板表示があった。
    エリート予選または一般の競技中(この点は事実確認が不確実)、上記の湿地の中を通過していると見られる一般選手がいた。なおこの目撃は、周囲をパトロール中のスタッフによってなされたものである。スタッフがそれではまずい、こんなことでは公園が利用できなくなると判断し、最初は人手で制止していたが、その後ホタルがいる湿地を囲むように白いテープを貼った。
  • ③ 上記②により、エリート決勝のルート上の通過可能な部分(渡れない湿地と②の湿地と間)を閉鎖する形で白テープが張られた。
    地図上ではこの部分は通行可能な表記であり、実際に通行することに公園利用上も支障はなかった。なお、この白テープには、「立ち入り禁止」の看板は設置されず、②で示す公式掲示板に準じたものとなっていなかった。

またこのテープの処置については、本部は把握していなかった。これはスタッフが緊急に対処したためと思われる。

 その後のエリートの決勝時、ある選手はそれを守って迂回し、ある選手はそれを無視して通過した。スタッフがいた場合には迂回するように指示がなされたが、その指示は徹底したものではなかった。

本件に対するJOAの見解

  • ①公園利用上明らかなルール違反とは言えないが、社会通念上問題にされる可能性のある行為だと考えられる。この点について、主催である日本オリエンテーリング協会として、十分な配慮が足りなかった。
  • ②大会参加者が立ち入り禁止区域を通過する可能性は高く、それを事前に防止する十分な対応を取らなかった点、オリエンテーリング競技者や運営者に啓発すべき立場にあるオリエンテーリング協会が十分対応してこなかった点、結果として公園利用上問題のある立ち入り禁止区域の通過を招いた点に、大会主催者、日本オリエンテーリング協会の反省と今後の再発防止の考えを、社会に対して告知すべきと考えられる。
  • ③地図にない白テープによる競技への影響について
    競技として不公平な状態が発生したことは間違いないが、このような事態が発生した大きな理由は、運営者内の連絡が十分ではなかったことや、遠因となった②の対応によるものであり、運営上の課題と言える。